中津はハモの町です。鱧音頭というものがあるほど。
何年も前のことですが、九州(あのときは宮崎だったか)へ向かう飛行機の中で、シートに備え付けてあったフリーペーパーの中に、中津のハモを紹介する記事を見かけたことがありました。
その記事に登場した老舗料亭の女将さんの表現では「中津のハモは絶品で、その味は海のミルク」とあり、「えっ!」と驚いたのです。
関西圏で育ち、食卓にハモがあがることはめずらしくなかったけれど、正直あまり好きではありませんでした。水っぽいくにゃくにゃした魚というイメージで。
それが「海のミルク」と表現されるほどの味とはどんなだろう?いつか食べにいきたいと思っていたのでした。
また、その記事には、それだけの美味しいハモが育つのは、耶馬溪の豊かな山からたくさんの落ち葉が養分となって川を伝い、豊前海へ流れ込むからだともありました。山の豊かさが海の豊かさにつながっている。そういうことを知ることができたのもその記事のおかげでした。
ちょうど引っ越してきた夏は、ハモの旬で「ハモフェア」ののぼりが市内のあちこちの和食処に掲げられていました。
そこで数年前の記事を思い出し、たどりついたのが創業明治34年の老舗「筑紫亭」さん。
土瓶蒸し、ハモしゃぶでいただいたハモはプリッとした弾力があり、ほんのり甘くて上品な旨みがふわーっと口に広がります。
そしてこちらでは、調味料は全て無添加、伝統製法で作られたものしか使わないそうで、ハモだけでなく、全ての料理が丁寧な味がするのです。特におだしや自家製ポン酢は身体に染み入る美味しさで、一滴も残さずのみほしてしまいます。
登録有形文化財に指定されている古い日本家屋を、大切に維持管理されていて、門をくぐったとたん別世界。活けられた花や掛け軸、蚊遣り、全てに気が行き届いていて、店の心意気を感じられます。全国から訪れる人が絶えないのも納得。
漫画「美味しんぼ」にも登場されたことのある女将さんは、食・文化・芸術・哲学に精通する方。
伝統を守り、文化を育てるための発信も行っています。
例えば、発酵学の小泉武夫さんのお話を聞く会やウィーンフィルハーモニーのメンバーによるサロン演奏会などを、定期的にお料理をいただく部屋で催されているとのこと。
先日は食育ジャーナリストの砂田登志子さんを招いた勉強会があり、お話を聞きに伺いました。
「食は人を良くすると書く」「学歴より職暦」「食育は職育」など漢字を使った端的な表現でわかりやすく食の大切さを説かれ、印象深く大変勉強になりました。これらの表現の通り食が選べる人は健康も人生も選べると。自分の健康を自分で守ることが真の自立であるとも。
格差が広がる今、安全な食品が全ての人に届きにくいという現状もありますが、まずは知ること。知ったら自分だけのものにするのではなく、工夫して、発信していくことが大切だなということも改めて思わされます。
また、参加されている方はほとんど女性で、地域の教育や社会的な活動に携わっていらっしゃる方が多く、女将さんをはじめ、改めて個々の力のすごい。
育児に関係する話も多かったのに、若い方がほとんどいらっしゃらなかったのはもったいなくてちょっと残念。
刺激を受けて(?)ひさしぶりに丁寧にだしをとってみたくなりました。「わらの本」の八方だしのレシピを参考に、昆布、干ししいたけ、そしてタイコウの削り節、いい味がでます。高野豆腐の含め煮に山椒をかけて。